第16章 ライジング・サン
「桜子さん、久し振り」
「佐助!皆も!」
家臣に案内されてやって来た佐助の横には
仔犬達にじゃれつかれている謙信様、笑顔でひらひらと手を振る信玄様がいた。
もういつ産まれるか分からないーーーそう書いた文を送ったら、日を見計らって会いに行くと返信がきたのはつい先日だ。
「妊婦姿も美しいね、天女。どうだい、次は俺の子を孕んでみないか」
「ふふっ、元気そうだね信玄様」
ムッとする幸に構わずに、相も変わらず冴えている信玄様節が楽しくて会話していると謙信様がスッ、と布に包まれた細長いものを渡してきた。
「前祝いだ」
受け取って布の結び目を解くと、そこには
高品質そうな子ども用の竹刀が二本揃っていた。
「ありがとうございます!……でも、なんで二本も?」
「産まれるのが一度に一人だけとは限らんからな。もし三つ子以上だったら追加で届けてやる」
淡々とした喋りの奥に垣間見える気遣いに感謝の気持ちが溢れて危うく泣きそうになってしまう。
佐助は暇を見つけては足を運んで来てくれていたが、皆が揃うのは祝言以来だ。
あれから半年とちょっと経ったけど、春日山城に住んでいた頃が最早懐かしい。
立ち上がって深々と礼をする幸の背中をぺしっ、と叩いた信玄様が浮き足立って囁く。
「幸〜、ここの女中達の器量はどんな具合だ?気になって仕様がないよ」
「………。桜子の言った通りほんと元気だな。己の目で判断して下さいっつの」
二人のやり取りに呆れる謙信様と、
私のお腹を凝視して妊娠の経過を自前のメモ帳に記録する佐助。
各人各様の微笑ましい振る舞いに、先程とはまた違った安穏さを感じていた。