第16章 ライジング・サン
「ねぇっ、どうかなぁ?」
わくわくと期待に満ちた瞳を輝かせ感想を待つ桜子。
「なかなか良いんじゃねーのか。進歩してるし」
「ほんと!?やったぁ」
万歳をして喜ぶ彼女に、俺も笑みを返し箸を進めた。
ーーー最初、こいつの手料理を食った時は想像以上の不味さで卒倒しそうになる程だった。
元々不器用なうえに現代の世でも食材や調理器具を扱う事無く生きてきたらしい。
女中達が必死に教えてきた甲斐あって、やっとこさ今このように安心して食える状態にまで昇華した。
「……でもこんな大事な時期に無理すんなよな。何かあったらどうすんだ」
「ふふっ、心配性だなぁ幸は。お嫁さんになったんだし、こういう事やってみたかったんだ」
彼女のふんわりとした微笑みに心がじん、と温かくなる。本来なら家事なんてやる必要無いのに、せっせと頑張る姿が可愛くて仕方が無い。
しかし………あまり動いて欲しくはない。
ーーー桜子は、臨月を迎えているからだ。
初期の段階ではつわりも殆ど起こらず、月のものが止まっているにも関わらず無頓着な彼女は大して気にもせず過ごし、懐妊していると判明したのは祝言の後だった。
評価を得て満足げに自作の料理を頬張る桜子の大きな腹。
いつ産まれてもおかしくないこの状況に、
俺は父親になるんだ、と日増しに実感が湧いてくる。
そしてこいつも、母親になる。ーーー
「明日はもっと美味しく作るね」
「おー」
向かい合って食事をする。
ただそれだけなのに、
これまでに感じた事の無い幸せを料理と共に噛み締めていた。