第16章 ライジング・サン
十一月・霜月
秋も深まった今日この頃ーーー
朝方、城の厨では、女中達の慌てふためく声が飛び交っていた。
「奥方様っ!危のうございますっ!」
「ああっ、そのような扱いをされてはっ………!」
激しく何かを叩き付ける音、
物を割る音など………
その場は混乱に陥っていたーーー
ーーー
「ゆーきっ、出来たよ〜」
膳を運ぶ女中達を従えた桜子がにこにこと部屋に入ると、空腹を耐え忍びながら待機していた幸村が駆け寄った。
「今朝は大丈夫だったのか!?」
「大丈夫大丈夫〜、少し指切っただけだし」
「切っ……!?」
手を掴み上げ凝視すると、人差し指に包帯が薄く巻かれていた。
ーーー言わんこっちゃない。
はぁ、と溜め息をついていると、
畳に膳を置いて退出しようとする女中達に桜子は申し訳無さそうに謝っていた。
「ごめんね、幸が物持っちゃ駄目だって言うから……わざわざ運んでくれてありがとね」
その言葉に恐縮しつつ座礼をする彼女等が去っていくのを確認した後、
桜子の背中を支え座布団に座らせ、自分も向かい側に腰を下ろした。
「まったくお前は……。料理苦手な癖に厨に立ちやがって。包丁なんか握るなよ、危ないだろ」
「だってどうしてもやりたいんだもん。それよりほらっ、食べてみて」
そう両手を広げて披露された膳の上に並べられた品々。ーーー
………………
妙な緊張感が走るも、恐る恐る手を伸ばしてみる。
まずは、豆腐と葱の味噌汁からいってみよう。
意を決し強張った面持ちで一口啜り…………
カッ、と眼を見開いた。
…………!
飲める………!
若干しょっぱいが、ちゃんと“味噌汁”だ。
具の方も問題無い。
ーーーほっと胸をなでおろし、次の難関に挑む。
野菜がごろっと盛られた煮物に箸をつけ、
一口入れる。
……………
無事に喉を通った………!
味付けは少々薄いが、これはこれでイケる。
蓮根と人参の火の通りが甘い気もするが、この位は目を瞑ってやろう。
ーーーうんうん、と頷き最後の一品である握り飯にかぶり付いた。
……………
よし!流石に難易度の低いこれは完璧だ!
いびつな形も気にならねぇ!
とうとう成し遂げたんだ…………!!