第4章 『旋風』
「でやぁぁぁぁ!!!」
とある日の午前中。野太い雄叫びと打撃音が部屋から漏れ、佳世が血相を変えて襖を開けると、壁に立て掛けた折り畳んだ布団に正拳を突いている桜子がいた。
「今度はなにを始めたのです!?それは………」
「ああ、ちょっくらサンドバッグ替わりに」
「さ……さんど……??なにを訳の分からない事を!暴れるなら外へ出て下さいまし!外へっ!!」
追い出された桜子は、仕方なくまた庭で体を動かし始めた。
(はぁ~…暇。幸と信玄様は視察に出掛けちゃったし。)
カラオケやクラブに行きたい。ハマッてた海外ドラマの続きも気になる。
ここでの娯楽といえば、将棋や囲碁、花かるた、貝合せ………等々、地味なラインナップだ。
つーか貝合せってなんだよ。
(花かるた……は花札の事かな?小梅が得意なんだよなぁ、あれ)
「……………………」
あれから捜索を続けてくれているようだが、小梅と蓮はまだ見つかっていない。
……………無事でいてほしい。
佐助は文を届けに行ったまま数日帰ってきていない。
車ではなく徒歩なのだから当然だが………
「なんだ、その踊りは」
いつの間にか近くに来ていた人物に、苦笑いを浮かべる
「はは……謙信様……。踊りじゃないです。空手の型ですよ」
(そうだ、謙信様が城に残ってるんだった………でもちょっと苦手なんだよな~この人…………)
ヒュン!
「!?」
何かをいきなり放り投げられ、受け止めたものを見ると一本の竹刀だった。
「………暇そうだから、付き合ってやる」
「え!?でも、刀相手にこんな………」
「俺も竹刀で相手してやる。仕様が無いから特別にだ。感謝しろ」
誘ってきたのはそっちからじゃ………と思ったが、なんとなく言葉にするのは憚られるのでやめた。
上杉謙信。真っ先に私に刃を向けてきた戦国武将。
こないだとは違い、今は誰も邪魔する者はいない。
これは好機だ。
「お願いします!」
深々と礼をすると、正眼の構えをした。