第15章 フレンドシップ・リレーション
「あっ、幸!」
がばっと勢い良く起き上がると桜子さんは小走りで広間の入り口に立つ幸に飛び掛かっていった。
「お前こんなとこに居たのかよ。探したじゃねーか」
「だぁって部屋より広間の方があったかいんだもん」
腕にしがみついてべったりと身体を密着させる桜子さんの髪の毛を撫でる、幸の目が優しい。
ほんの数ヶ月前までは、公衆の面前で………俺達の前でも手すら繋がなかったのに今じゃ嫌な素振りひとつ見せない。人は変わるもんだ。
幸村は抱えていた桶から手拭いと湯浴み用の浴衣を取り出し桜子に渡す。
「湯浴みしに行くぞ。ほれ、着替え持ってきてやったから」
「ありがとー。やっと一緒に入れるね!私昨日まで生理だったから」
…………………………
せ・・・・
俺が固まっていると、首を傾げていた幸が言葉の意味に気付き一気に赤面した。
「おまっ……それってアレだろ!?佐助の前でそんな事暴露してんじゃねぇっ!」
「え〜?佐助だからこそ気兼ねなく言えんじゃん。ねー?」
呑気な口調で話を振ってくる桜子さんに俺は引き攣りながら「そうだね」としか言えなかった。
彼女は非常にあけっぴろげな言動や行動をする。
いつぞやなんて下着姿で皆の前をうろちょろして驚愕した。
本人曰く『布で隠れてるから大丈夫』だそうだ。そういう問題じゃないよ。
下着といえば、着物の時はこの時代の女子と同じように襦袢の下は何も付けていないらしく、『ノーパン健康法は効く』とわざわざ報告までしてくれた。
そんな調子で、俺が思い描く女性像をことごとく撃破していく桜子さんだが、それでいて意外と乙女な部分も併せ持っている。
不思議な子だ。
「あーもー、とっとと行くぞ」
「うん!じゃね、佐助」
話を切り上げたいのか、幸が後ろ手を差し伸べながら歩き出す。
桜子さんは手を重ねるときゃっきゃ、と楽しげにくっついていった。
あーあ、ラブラブだねぇ。まぁもう少しで夫婦になる訳だしね。
寄り添って湯殿へ向かう二人を見送った俺は、彼女が読みかけていた書物のページをパラパラとめくり、羅列された文字を目にしているうちに広間に設置された火鉢の暖かさによって段々と睡魔に襲われていった。