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【イケメン戦国】戦国舞花録

第14章 マイ・ガール ※R-18




“私の方こそごめんね”

“また今度にして”


昨夜から泣きそうになってる顔か冷めた顔しか俺に見せなかったのに

今、あいつは満面の笑みだ。

俺ではなく、謙信様に。



ああまた、黒い靄がザワザワと纏わり付く。



なにやら白い塊を取り合っている二人の元へ歩を早める。
直ぐ様俺の存在を感知した謙信様は怠そうに桜子から距離を置いた。


「すみません謙信様、こいつ借りるんで」


苛々しながらも一応断りを入れて桜子の腕をグイ、と引っ張った。
ーーーが、頭を垂れたまま岩の如く動こうとしない。
片側の腕の中には兎が抱かれていた。


「………そいつ放して中へ入るぞ」

「やだ。まだこの子と遊ぶ」

「いーから来い」

「やだ」

「話があんだよ」


瞬間、桜子は強張った顔つきでこちらを見上げた。


「……話したくない……」


その一言にチクリと針で刺されたような痛みが走る。
しかし話をしなくては何の解決にもならない。
力ずくで引いて立ち上がらせようとすると、俺の手首を謙信様が強く掴んだ。


「やめろ。こやつは膝を痛めている」

「………。だったら俺が診ますから」


桜子を庇う謙信様にも何も知らなかった自分にもますます苛つく。
しゃがんで彼女を抱える体勢をとると、
ドン、と肩を押し退けられ後ろに手をついた。


「やだ!診なくていい!話もしたくない!幸とは話なんかしたくない………!」


目にいっぱいの涙を溜めて泣き叫ぶ桜子に、俺はこれまでの嫉妬心も焦燥感もなにもかもが吹き飛んで…………
真っ白に、なった。








…………………………


茫然自失で、その後どう城へ戻ったかはぼんやりとしか思い出せない。
はっきりしているのは桜子が謙信様に抱えられ遠ざかっていく記憶のみ、だ。


俺は夕餉も摂らず湯浴みを済ませ縁側で一人きり、風鈴の紐にぶら下がった短冊が微かに風に揺れるのを瞳に映していた。

次の段階へ踏み出したいとやきもきしていた夏の始め、桜子とふざけ合って寝そべり一緒に愛でていた風物詩。

望みを叶えた今、一人でそれを虚しく見てるなんてあの頃の自分には想像出来ただろうか。

葉月の半ばを過ぎ、短い越後の夏が終わりに近付いている事を報せるような音色がやけに耳に響いた



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