第4章 『旋風』
「…………っ、………」
「…………、…………」
(…………あれ………なんか、聞こえる………)
人の会話らしきものに、頭の中が覚醒されていく。
目を開くと澄んだ青空が見える。
「………ん~……寝ちゃってた………」
どれくらい寝ていたのだろう。体を起こして首を回していると、近くからまた声がする。
「………よ、………様っ……」
(…………何?)
ヒソヒソ声に怪しさを感じ、ズリズリとほふく前進のように廊下を進み曲がり角まで来るとハッキリと耳に入ってきた。
「あんっ」
(あん……………?)
角から向こう側を見上げると、壁に押し付けられた女中の首筋に顔をうずめながら胸をまさぐっている信玄の姿が眼前に広がった。
「あっ……信玄様、いけません……こんな所で………ああっ」
「いいじゃないか。場所など関係な………………ん……?」
口を開けたまま、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている桜子と目が合う。
「やあ、天女!調子はどうだい?」
瞬間、絹を裂くような悲鳴と鈍い音が響き渡ったーーーーーーーーー。
「なんの騒ぎだ!?」
バタバタと慌てた幸村と謙信が現場に辿り着くと、うずくまる信玄と空手の構えをした桜子、逃走を図る女中がいた。
「信玄様っ!大丈夫ですか!?一体なにが…………まさか敵襲か!?」
「幸………っ、俺はもう、駄目かもしれん………っ」
「信玄様ー!」
真の経緯を察知した謙信は呆れたように息を吐いた。
「………見ちゃおれん」