第14章 マイ・ガール ※R-18
夕餉も済み、桜子は楽しそうに若い女中達と女子会とやらに行ったので、
俺は佐助の部屋で男二人、晩酌をしていた。
「ーーーあいつはほんっっとに可愛い!そうだよなー?」
「うんうん、そうだね。それ、これで五回目なんだけど」
聞き飽きたと言いたげな様子の佐助が淡々と答える。
五回だろうが十回だろうが言い足りないんだよ、解れよこの野郎。
ーーーそれ程好きなんだ。
好きで好きで…………あいつの過去にすら、意識を傾けるようになってしまっている。
「………なぁ佐助」
「何」
「あいつ今まで何人の男と付き合ってきたんだろーな………」
「………。さぁ……。幸ってそういうの気にする性格だったっけ?」
ーーー気にしない。気にした事もない。
そんなのどうでもいい。知ったとて何の感情も湧かない。
そう思ってた。
桜子に逢うまでは………。
…………桜子は、生娘じゃなかった。
だからといって嫌悪を抱く訳でも無し、
輿入れ前の女は純潔であれ、という思想も持ち合わせてはいない。
けど…………
“誰なのか”は気になっていた
あの守りの堅い桜子が、女の一番大事なもんを捧げた男ーーー
桜子が本気になった男ーーー
気に、なっていた。
「………幸、聞いてる?」
「………っ、な……なんだ?」
「酔ってるね……目が据わってる」
ああそうか………酔ってるせいだ。
普段は奥底に仕舞ってある密かな嫉妬なのに
今や脳内それ一色なのは、
酔ってるせいだ。
大体、俺だって過去に女はいたし
自分のことを棚に上げてあいつの男遍歴にあーだこーだと口出しするなんて野暮だ。
鬱々とした考えはやめにしよう。
「そうだ、桜子さんも今頃酔っ払って潰れてるかもしれないし生姜湯でも持ってってあげなよ。吐き気止めになるから。民間療法だけどね」
「……女達の中に入っていきたくねーよ」
「行ってあげなって。なんか会いたそうな表情してるし」
「……っせぇよ」
仕様が無いな、持ってってやるか。
あいつ、酒弱いからな。
佐助の言う通り、少し顔も見たいし。
猪口を盆に置くと、わざと面倒臭い振りをして俺は部屋から出た。