第14章 マイ・ガール ※R-18
「お……お待たせしました………」
広間の障子を開けると皆から一斉に注目を浴びた。佐助は相変わらずの顔付きだが信玄様は何かを察してニヤニヤしてるし謙信様は不機嫌そうに睨んでる。
…………少々時間が押してしまったようだ。
一言侘びて、膳の前に座ると桜子も隣に腰を下ろし並べられた料理に見入っていた。すると、
おもむろに髪を後ろでまとめようと掻き上げた………が、
露わになった首筋の状態に俺は慌てた。
「馬鹿っ、結うな!見えてんだよ」
「え……?なにが見えてるって?」
小声で指摘してやったのにデカい声で反応しやがった。あーあ、信玄様に冷やかされる。
「幸〜。せめて見えない処に付けろよ」
ほら来た。自分の首をトントン、と人差し指で弾き愉しげに俺等を見てる。
その仕草でやっと気付いたのか桜子は赤ら顔で結うのをやめ、髪で隠した。
先程つけたばかりの赤い印ーーー。
ちゃんと見えない箇所に刻んだはずが、着物の衿から僅かにはみ出てしまっていたのだ。
「時に小娘。お前今日もまた城下で大暴れしたそうだな。俺の耳にも届いている」
「だぁって、しつこいんだもん。あっちが悪いんだからっ」
食事が始まり、梅を箸でつつく謙信様の問い掛けに、桜子は啜っていた汁物を膳に乱暴に置くと
怒り口調で身振り手振りを加え事の顛末を説明していた。
こいつの見てくれに惑わされた軟派な野郎が懲りもせずまとわり付いてきたらしく、体術を駆使して撃退したーーーという女らしからぬ武勇伝だ。
逆恨みされたらどうするんだ、と叱っておいた。
そう、桜子は簡単には男に靡かない。
目移りする事も無い。
本気で惚れ込んだ男しか選ばない。
俺は冥利に尽きる心の片隅で、
それは決して自分だけに与えられた称号ではない
と
見ず知らずの男に嫉妬していた