第13章 リーサル・ウェポン
「謙信様、明日は約束があるから鍛錬の相手できないんだけど…いい?」
「なら小遣いは無しだ。」
「えー!?そこをなんとかお願い謙信様ぁ」
桜子が謙信様に甘えるようにすがりついて飛び跳ねている。そんなにくっつく必要あんのか?もうちょい離ろよ。
「ほら……うかうかしてると他の男に掻っ攫われるかもしれないぞ。早くモノにしろ」
信玄様の悪魔の囁きが鼓膜を揺らす。
そのうちなるようになる、と言ってた矢先なのに……絶対面白がってる。
湯浴みしに行くと言う謙信様と別れた桜子と佐助は俺の横に二人で腰を下ろし、なにやら楽しげに会話している。
「へー、佐助って音楽好きなんだね」
「うん。主に洋楽だけど……現代で暮らしてた頃はビルボードランキングは必ずチェックしてた。ジャンル問わず聴くよ。クラシックやメタルも」
「えっ、メタル!?意外〜!ウケる〜」
きゃっきゃ、と和気あいあいで話に花を咲かせているのを耳にしていると、苛々と眉間に深く溝が刻まれていく。
…………何を喋ってんのかさっぱり解んねぇ。
二人が現代話で盛り上がると俺は完全に蚊帳の外になる。
佐助は無表情だがよっぽど興味がある話題なのか饒舌だ。
常日頃桜子に友好的で、相談事もよく引き受けているらしく彼女に対して友人以上の感情を秘めているのでは、と疑った事もある。
しかし俺の親友だ。裏切られない自信はあるが、光る眼鏡の奥の真意は読めないーーー。
つらつらと思考を巡らせていると
「しっかし夕方になっても暑いなぁ、今日は……」
そう気怠そうに信玄様がパタパタ扇いでいた手を止め、袖を上へ捲り上げたーーー途端、
「わぁ、信玄様も凄ぉい……」
その露出した逞しい腕に桜子が目を煌めかせ、近寄ろうとしている。
ーーーまずい!
またさっきのようにうっとりした眼差しで弄ろうとする気だ。
俺以外の男にそんな事して欲しくない。
「ちょっとこっち来い!」
佐助と信玄がポカンと見つめるなか幸村は桜子の手首を鷲掴み立ち上がらせると、その場から連れ出していった。