第13章 リーサル・ウェポン
「………幸?」
きょとんとしている桜子の背丈に合わせて前屈みに顔を近付け………
俺の雰囲気を察した彼女の睫毛がゆっくり伏せかけた、時。
(……!)
かしましい女の話し声が城壁の向こう側から聞こえてきた。
複数いる模様だ。
そうだ……この時間帯は女中達が井戸へ洗濯をしにやって来るんだったーーー
「おいっ、ひとまず着物着ろ!ここから離れるぞ!」
「え?なんで?」
「いーから早く!」
こんな現場を目撃されたら、たちまち城中に噂が広まり必ず信玄様の耳に入るだろう。
きっと愉快げに冷やかしてくるに違いない。
納得いかないのか、着るのを渋る桜子の身体を無理矢理着物で包み、地面から帯を拾うと素早く腕を引き、その場から駆け出した。
「はぁ……はぁ……なんで逃げなきゃなんないのー?意味分かんないっ!」
強制的に反対側の城壁の陰に隠れさせられた桜子がぶつぶつと文句を垂れているのを横目に、幸村は手際良く己の身なりを整えた。
「ねぇっ!聞いてん……」
言い掛けた文句を遮り顎を引き寄せると、そのしかめ面の口を塞いでやった。
………………………
しん、と辺り一帯含め静まり返る。
「これ着て城の中に戻ろう。着付け手伝ってやるから。な?」
口を解放し微笑みかけてそう言うと、桜子は目をトロンとさせ桜色に染まったふやけ顔で素直に頷いた。
さっきまでの威勢はどこへやら。
一気に大人しくなり、余韻に浸って夢見心地だ。
………可愛い。
すっげー可愛い。
桜子に着物の袖を通しながら俺もつい頬が緩んでしまう。
太陽の光で白肌が一層眩しい。
このまま部屋まで連れ去ってしまいたい。
あー、欲望との闘いはまだ終わってないようだ。