第4章 『旋風』
「出合えー!出合えー!!」
「「はっ」」
そう叫ぶと、何処からともなく走ってきた多江と三津が現れ桜子を拘束した。
「なっ………きたねーぞ、ババアっ!!」
「ふん、観念して下さいまし。」
三人の女中に引き摺られ去っていくパンツ姿で暴れる女を凝視する男達の食卓にシン、と静けさが訪れる。
体を震わせ目を覆った信玄が堰を切ったように大笑いした。
「あの子は本当に愉快だな。見たか、ババアと言われた時の佳世の顔。流石の武田家女中頭も形無しだ」
「……………埃がたつ」
信玄が笑うなかボソリと呟き淡々と食事を続ける謙信だが、佐助は自身が持つ女性像がガラガラと崩壊していく感覚に苛まれていた。
「クレイジー過ぎるよ、桜子さんっ……………ん?幸……?」
幸村は微動だにせず明後日の方向をただひたすら見ている。
(谷間が…………谷間が…………)
「帰ってこい!幸~!!!」
「よしっ、出来た!」
謙信様と信玄様の計らいで、城の敷地内では私服で過ごす事が許されたのでTシャツとスエットに着替えた私は朝食を済ませ、ノートから1ページ切り離した紙に文章を書き終えるとボールペンを文机の上にコトンと置いた。
百合さんへの文だ。
佐助が筆記用具を持参してくれていて助かった。
墨を使って筆で書くなど面倒くさい事この上ない。
「改めてボールペンの便利さを思い知らされるよね、ここにいると。桜子さんはその大きな鞄に一体なにを詰めてきたの?」
「えっとー。着替えに洗面道具でしょ、ティッシュ、試供品のシャンプーとコンディショナー、あとは全部お菓子と乾電池。財布や鍵とかのいつも持ち歩いてるやつはサブのリュックの中にあるし」
「すごい量の電池だね……」
音楽も聴きたいし写真だって記念にたくさん撮りたいということで、電気が通ってないこの時代、乾電池式充電器に頼るしかなかったのだ。
「それよりも、はいこれ」
「うん。ちゃんと本人に手渡ししてくるから安心し………………………」
文を差し出すと、佐助が言い淀んだ。
数秒無言のままだったので、どうしたのかと聞くと首を横に振ってはぐらかされてしまったが、私はたいした気にも留めず安土城へと向かった彼を見送った。