第12章 ネクスト・ドア ※R-18
ーーーでも………このままじゃいけない。
別れを告げなければ………
そう腹を括ったある日、
どの頃合いで話を切り出そうかと頭の中で練っていた最中ーーー
後ろを歩いていた八重が珍しく大声を張ったので肩がビクンと上がった
「話聞いてます!?真田様!」
初めて見た、彼女の怒りの形相。
…………まずい。またうわの空だった。
「お……おー。聞いてる、聞いてる」
「嘘つき!知ってるんだから!真田様は私の話なんてまともに聞いてくれた事無いじゃない!………最初の時からずっと………!」
興奮気味にまくし立てる八重に通行人からの注目が集まりザワザワとしていた。
「八重……場所変えよう。俺、お前に言わなきゃならない事があるんだ」
「………。………じゃあこっちに来て下さい」
ぐいぐいと腕を引かれ
早足で道を辿っていく。
向かった先はーーー
「おいっ、ここに入るつもりは無ぇよ!」
「いいから来て下さい!」
幾度となく利用してきた宿の入り口で押し問答していたが周囲の視線が刺さり、「話をするだけだ」と念を押して暖簾をくぐった。
しかしーーー
通された部屋に着くなり、八重は帯を外し始めた。
「何やってんだよ。話するだけだっつっただろーが」
「私の話は聞いてくれなかった癖に、自分の話は聞けだなんて随分虫がいいんですね」
「……それは……悪かった。けど今から話すのは大事な事だから聞いてくれねぇか」
「嫌です」
外した帯を畳に放り、着物の合わせを開くと八重は俺の手を掴み自分の露わになった胸に当てた
「そんな話より、ほら………」
「………やめろ」
俺の手を使って揉む仕草をする。
「ね?したくなってきたでしょ?」
「ーーーやめろって!」
強く振り解くと、
彼女は褥に突っ伏したまま静止していた
「………知ってるんです。真田様は私を愛してない、って………。初めから……知ってました」
…………………………
「ごめん…………」
ちゃんと説明してから告げると決めていたのに、
ありきたりで簡素な一言しか出てこなくて、
その後も言葉を交わす事なく
すすり泣く声だけが部屋に響いていた…………。