第12章 ネクスト・ドア ※R-18
「信玄様……っ」
たまたま通り掛かった信玄様が、面白い現場に出くわしたとでも言わんばかりの笑みを浮かべてこちらを見ていたので慌てて八重から離れた。
「来てたのか、八重」
「ええ。父がお世話になってます」
「平蔵の酒は並外れて美味いからなぁ。晩酌が楽しみだよ」
二人が会話をしている間幸村が気まずそうに無言で汗を拭き倒していると、どんどん話題が自分へ向けられていくのを耳にし手が止まった
「………はい、そうなんですよ。なので思い切って想いを伝えてみたんです。」
「へぇー。やるなぁ、八重。………で、幸〜。お前はどうするんだー?」
信玄様がニヤケ顔でこちらに問い掛けてくる。
どうする、ったって………
視線を逸し戸惑っていると、八重が覗き込んできた
「真田様、私の事お嫌いですか?」
「いや……別に嫌いじゃねーけど……」
「なら……私を受けとめて頂けませんか」
「…………」
うるうると瞳を潤ませてすがりついてくるさまは、健気で可愛らしく見えた。
こんなにも好いてくれているのか、と嬉しい感情もある。
しかも信玄様の前だ。ここで断るのは可哀想に思えた。
「……じゃあ……分かった。受け取ってやっても良い……けど……」
「本当ですか!?」
「お、おぉ……」
「嬉しい………!勇気を出して良かったわ……有り難うございます」
ぱあっ、と笑顔になった八重は小さく頭を下げた。
まぁ、いっか………。
悪い気はしなかった。
「いやぁ、幸も隅には置けないなぁ。上手くまとまった事だし二人共これから出掛けておいで。今日は政務も無いし……平蔵には言っておくから」
「武田様……!有り難うございます!ほら、参りましょ、真田様」
「ちょ、おいっ………」
袖を掴まれ連れ出される俺は信玄様が手を振って見送る姿を尻目に、
あたふたしつつも鍛錬場を出た。