第12章 ネクスト・ドア ※R-18
「真田様、お疲れ様です」
鍛錬場で素振りを終え一息ついていた幸村の元へ、手拭いを持った女が歩いてくる。
「……八重」
軽く礼を言い手拭いを受け取ると、額やこめかみから流れる汗を無造作に拭いた。
その様子をにこにこと見詰めるこの女ーーー八重は、父である平蔵と共にたまに城へ訪れて来るのだが、何度か話しているうちにどうやら懐かれてしまい、町を歩いていても後をくっ付いてくるようになった。
「いつ見ても真田様は素敵ですね」
「………どーも。」
「町の女子達の中には真田様をお慕いしている方が何人もいるんですよ」
「ふーん。」
「……だから私、焦っちゃって……」
瞬間、後ろからやんわりと抱き締められ
幸村の身体が跳ねた
「いつか誰かに取られてしまうのではないかと……不安になったんです。……私も真田様の事をお慕いしてるから……」
そう話す八重の胸の感触を背中で感じドクドクと心臓が鳴り続ける。
これはトキメキとかそういうもんじゃなくて、雄の本能によって反応しているのだーーー情けないが、仕方がない事だ。
「今日こそは……きちんとお伝えしようと思ってたんです」
「そ……そーか……」
「お返事……聞かせて貰えませんか……?」
「………。八重、俺…は……」
五月蝿い本能と闘いながら、
“すぐには答えられない”と、言おうとしたのだが……
「お邪魔したかな?」