第10章 『永劫』
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戦場を後にし、勝利の余韻に浸る足軽達を引き連れ帰途につく。
ああ、帰れるんだ………と、段々と見慣れた風景を目にしながら、幸が手綱を取っている馬に跨る私は感慨にふけっていた
「………あ」
ようやく城の大手門に辿り着こうとしていた時、門柱の所に佇む人影が見えた。
あれは………礼が言いたかったもう一方の人物だ。
鬼みたいに厳しくて、手習いの途中でひと悶着してからそれっきりだった……
「佳世さんっ!」
私の叫びに反応した佳世さんがゆったりとした足取りでこちらに近付いてくる。
前方にいる謙信様や信玄様に挨拶をし、私達の元までやって来てチラリと幸に目線を送った
「これの出番は無いようですね」
そう言って手にしていた短刀を掲げる。
「………そーだな」と幸が答えると、スッと懐にそれを仕舞い踵を返そうとしたので呼び止めた
「あのっ……私の為に……ありがとうございます!」
責任を感じ己の喉に刃を突き付けてまで、私を迎えに行けと叱咤された、と先程幸が苦笑していた。
私を疎ましく感じていると思っていた彼女がそこまでするとは想像も出来なかったのだ。
「毎日付きっきりで教えてくれたのに……癇癪起こしてごめんなさい……次から頑張りますからまたお願い出来ますか……?」
「………貴女みたいな不出来な子、初めてお目にかかったわ。もうクタクタよ」
「…………」
「………だけど………そんな貴女の世話が務まるのはこの私以外見当たらないわね」
常に仏頂面な佳世さんが一瞬広角を上げた
「これからもビシビシ鍛えますので、覚悟なさい」
「………はい!」
広角を下げいつもの面持ちに戻ると颯爽と門へ去っていく。その姿にお辞儀をする私の丸くなった背を幸が撫でていた。
優しさ、とは目に映るものや耳に聞こえるものだけが全てではない。
彼女のきつい言葉の裏に隠れたそれを私は垣間見たのだーーー。