第10章 『永劫』
隣で横たわった幸が目を細め柔らかい表情を私に向けていた
(幸………)
笑って欲しいと言われたのに感情が込み上げ鼻の奥がツンとする。
パーカーのフードを被って目元を隠し必死で涙を堪えていると「あ」と声がしたので、何事かと生地の端をずらし、そろりと伺うと幸が上空を指差していた。
「虹だ」
雨上がりの爽やかな空に半円を描き浮かんだ、虹。
赤、黄、青……など彩り豊かな数本のラインが重なっていた。太陽の日差しが放射状に掛かりきらきらとしていて、見ている者を和ませる。
「綺麗……」
いつの時代も変わらない光景。
だけど“誰と”見るかが重要なんだ。
私は、幸と見たい。これからもずっと。
だから
私は………
幸と生きる。
この、戦国の世で
ーーーーーー
それからーーー
戦場に戻るという幸と海岸から去る前に私はやるべき事を果たす為、海水の中に入り膝まで浸かる位のところまで来ると左指から輪を抜いた。
銀に光るそれをじっと見つめる
ーーー初めての、本気の恋。
違う人を好きになっても、光太郎……貴方は大切な、私の人生の一部。
愛してくれて、ありがとう。
そして……
「さよなら……」
そう呟き水中で指先から離すと、浜辺で待ちぼうけている幸から不機嫌そうな声色で催促されたので急いで海から出た。
その後………
自由になった二つの指輪は水面でぷかぷかと浮遊し、長い時間漂っていたが
やがて波に飲まれ…………
かつて対だったそれらは別々に
深い海の底へと沈んでいった