第3章 『面影』
「あ。」
ある事を思い出した桜子は褥から上体を起こし、ポーチの中からシルバーの指輪を取り出すと右手薬指にはめた。
「いけね、忘れてた」
幸と勝負する前に外して、それっきりだった。
そっと反対の手で触れる。
『左の指は取っとけ。将来もっと良いもん買ってやる』
(…………………………)
スマホのメニューを開き、アルバムの写真フォルダをタップする。
(今日はね、すごく色んな事があったんだよ。なんとあの真田幸村に会っちゃったんだから!羨ましいでしょ。しかもめっちゃ似てるし。……………覚醒遺伝?)
『ずりー!今のうちにサイン貰っとけよ』
桜子の隣に写る、幸村によく似た男の顔を画面越しに指先で撫でる。
『桜子』
(会いたいよ、光太郎………………………)
押し殺した泣き声は、夜の静寂の中へ消えていった。