第9章 『狂愛』
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事態が飲み込めず、呆然と見守っていた二人の方へくるりと身体を反転させると「おい」と、桜子を見据えた
「俺を刺すなんてとんでもねぇ女だな、お前は」
ーーーけど、俺を殺せたのに、殺せなかった。
お前はそういう女だ
「そんな奴、もう要らねぇよ。嫁にでもなんでもいっちまえ。そこの男に熨斗付けてくれてやる」
ーーー本当は、今でも恋しい
「お前なんか、大嫌いだ」
ーーー俺、嘘は得意なんだ。
お前にはバレてるかもしれないけど
「こ……たろ……」
桜子が言いかけた時、
渦を巻く暗雲の中心が光太郎の真上を捉えーーー
風圧が増し砂が舞い上がった
………………………
「………お迎えだ」
そう見上げた顔を
ゆるり……と幸村へ向けた
「ーーー桜子を、頼む」
「……言われるまでもねぇ」
「もし不幸にしたら……死ぬ気でここに来る方法を探してまたぶん殴ってやる」
「上等だ」
睨みつけて答える幸村に
ふ、と笑いかけた光太郎は
ワームホールに巻き込まれないようにもっと遠くへ離れろと促し、私達がある程度距離を置いたところに移動したのを見届けた、
刹那
天空から渦を切り裂くかの如く雷が閃きーーーーーー
白い光が彼を、包んだ
「さよなら」
最後に一言発した
澄んだ笑顔は、
憎悪や狂気は消え去り
私が一度は本気で愛した“あの頃の彼”と同じだった
光が姿形を完全に包み込む間際
その目尻に光るものが見えた