第9章 『狂愛』
浅い呼吸を漏らし
歩調を速めると
顔に貼り付いていた髪が後方になびき風に乗っていた
あるところに辿り着き
踏み切ったスニーカーのゴム底から、濡れ固まった砂の塊が飛び散った
両手を広げーーーーーー
男に、ぶつかるような勢いでしがみついた
“………小娘、刀を持つ気は無いか”
“必要ないです”
“刀があれば身を守る事も出来るんだぞ”
“要りません”
“お前は魑魅魍魎が闊歩するこの時代をどう生きる”
“それでも人を死なせる武器は持ちたくないんです!”
ーーー随分前に、謙信様とそんな会話をしたっけ
「桜子っ!?」
背後から自分を押さえる桜子を
臨戦態勢だった光太郎が驚いた表情で振り返り、
対峙していた幸村もその突然の行動に目を見張った
ああ、そうだね、謙信様……………
私は、甘かった。
説得で解決、なんて出来っこない。
現代の平和な生活に慣れ過ぎた私の生温い考えじゃこの戦国時代では通用しない、ってこと。
だから、私は………
私はーーーーーー
桜子は、
光太郎の腰に下がった脇差の柄を鞘から抜き…………………
肘を引くと、
目の前にある
昔、好きだった背中に向かってーーー
刃を、突き出した
ーーー私はこうして、自らの手で幕を下ろす。