第9章 『狂愛』
「横取りだろーがなんだろーが………」
幸村は下から突き上げてくる刀身を槍の刃で薙ぎ払い、柄頭を光太郎目掛けて振り降ろした
「あいつを渡す気は更々無ぇ!!」
ーーー初めて、だったんだ。
自分から好きになった女は桜子が初めてだった。
それ以前は相手から一方的に好意を寄せられ、なんとなく男女の関係になって………
なんとなく、な感覚では関係が長く続く筈も無く、終わっていった。
女との色恋なんて所詮こんなもんか、なんて。
けれど桜子だけは違ったんだ。
離れたくない。
離したくない。
共に生き、
この手で幸せにしたい。
それらを阻むものから守りたい。
だから、ここは譲れない
絶対に。
「くっ……!」
辛くも寸分で避けた光太郎は地面を転がり、
起き上がると間合いを取った。
ーーーその時ーーー
「「「…………!」」」
ひと際強大な轟音が響き、浜辺に居た三人は頭上を見上げた。
黒みがかった暗雲が、おどろおどろしくトグロのように渦巻き………その合間にはチカチカと雷光が帯びている。
もうすぐ、ワームホールが開くーーーーーー!
ニッ、と口角を上げ光太郎は刀を構えた
「…………時間だ。そろそろ終わらせようか」
「そうだな………。勝つのは、俺だ」
そう幸村はコキコキと首を回すと腰を落とし、槍を 握り直し…………
風雨に強く吹かれる二人は、覚悟を決めた。
「………………っ」
やっと自由になった両手で足の縄を解いていた桜子は、雨水と汗が流れる顔に濡れた長い髪が貼り付いたまま言葉を失くし、大きく開いた目に二人の姿を映していた
もう、時間が無い………
二人から漂う、凄まじい気迫………
長年剣術に携わってきた私には分かる。
ーーー次の一手で、決まる………!!