第9章 『狂愛』
「無理矢理攫って縛りつける………それが桜子に対するてめぇの愛情かよ。そんな屈折したもんあいつが喜ぶ訳無ぇだろ」
腕に負った苦痛で顔を下に傾けていた光太郎は、垂れている前髪の隙間から眼球をジロリと上目遣いにし、爪先で砂を蹴り上げた
「……あんたに何が解んだよ」
「!!」
砂が幸村に目にかかり
一瞬瞑ったのを見計らいーーー
光太郎は拳をその頬に放った。
幸村は殴られた勢いでふらつき、地に片手を着いた。口の端から赤色が一筋つぅ……と流れる
刀を手に光太郎が迫るのを察知し、体勢を立て直し口内に入った血をプッと吐き捨て、槍を差し向けた
「一度、素手でぶん殴ってやりたかったんだ。………あんたには解んねぇよ、俺の気持ちは」
「解んねぇし、解りたくもねぇ」
そうして刃と刃が激突しーーー
また、
二人の攻防が再開した……そんなまっただ中ーーー
「早く……早くしないと……」
桜子は後ろ手に縛られた縄に貝の縁を擦り続けていた
切れるものならなんでもいい、早く解いてこの戦いをやめさせなければという一心だった
微弱ではあるが、少しずつ確かに切れていきあと一息というところだ。
私が割って入って説得なんかしても最早解決できる状況じゃないかもしれないけれど……何もせずにはいられなかった。
両者は、引く事もせず
未だ激しくせめぎ合う
死闘ーーーそう表しても過言ではない程に。
「桜子は元々俺のものだったんだ……それを知らない内にあんたが横取りしたんじゃねぇか」
光太郎は上半身を屈め
低位置から攻めの一手を出す
「同じ顔した同じ血筋だからこそ………だからこそ余計許せねぇんだよ!」