第9章 『狂愛』
衝撃音が鳴り、
得物同士がギリギリと交差する
「心臓ぶち抜いてやりたいところだけど……残念な事にあんたに死なれちゃ俺の存在が危ういんだよねぇ……だから、二度と闘えないくらいに武将として再起不能の身体にしてやるよ。なぁ、ご先祖様」
「てめぇみたいのが子孫なんて身の毛がよだって仕様が無ぇ。再起不能?やれるもんならやってみろ」
刃と刃が弾き合い離れると、
それぞれが隙を与えず攻めを仕掛けていく
その争いを、桜子はがちがちと歯を震わせ戦々恐々とした目で追っていた
ーーー昔、愛した人
ーーー今、愛している人
何の因果か、
同じ血を持つ二人を私は愛してしまった。
偶然か、必然か。
天からの度が過ぎた悪戯か、それともただこういう宿命だったのかーーー
いくら考えれど分からない。
「いっ……!」
なんとか動こうと肩や肘を使い引きずっていると、ピリリ、と痛みを感じた。
なんだろうと見ると、捲れたスエットの裾から出ていたふくらはぎに薄い切り傷が出来ていた。
その下には、貝殻が転がっている。貝の鋭利な縁には私の血がついていた。
辺りには他にもちらほらと大なり小なり多様な貝が浜辺に落ちている。
「貝……殻……」
切り傷………
縁………
…………
………………
次第に…………
空では渋い鼠色の雲があたかも意志があるかのようにうねり、三人の真上をぐるぐると大きく旋回していた
そして地上ではーーー
「………っっ!」
幸村が突き出した槍頭が光太郎の上腕を掠り、
紅い血液が舞った
反対の手で傷口を押さえよろめき、草鞋の裏が湿った砂の上をザザザ、と滑る。
「それは戦での借りだ。ずっと返そうと思ってたからな」
そう幸村は刃を軽く空で切り、付いた血を払い
相手越しの向こう側ーーー少し離れた場所にいる、
手足を拘束され蠢いている桜子を一瞥した