第9章 『狂愛』
ーーー来るはずがない
だって、
終わりだ、って見限られたんだから
だから来るはずない
そう思って、いたのにーーー
小さく聞こえていた蹄の音が徐々に大きくなり、
茂る草木を抜けてきた一頭の馬に跨がるのは、
焦れて焦れて堪らなかったーーー
私の愛しい人。
「ゆ、き…………」
全身ずぶ濡れで、
髪から伝った水が顔中に流れるもこちらを両目で捉えたまま逸らさずにいる幸村の、姿
「幸ーーーー!!!」
もう、雨なのか涙なのか混ざり合って分からない。
その水滴が風にさらわれていく。
来てくれた
幸が、来てくれた
留まる私達を確認すると
肘を引き停止させ、馬上から畏怖を感じさせるような様相で口を開いた
「桜子は、返してもらう」
身を乗り出して叫喚する桜子を自分の胸に引き戻すと光太郎はにやりとした
「ーーー嫌だ、と言ったら?」
……………………………
「力づくで、奪い取る」
幸村は鐙から浜辺に足を降ろすと
槍の柄に手を掛けた