第9章 『狂愛』
「………?」
ただならぬ雰囲気に戸惑っていると私を抱えている腕にグッと力が入った次の瞬間、景色の流れが速くなった。
一気に走り出した急な彼の行動に訳が分からず問い掛けようとしたが、向かい風と雨が顔面にバチバチと当たり思わず口を閉じた
「邪魔させねぇ……絶対に……」
そう繰り返す彼の低い独り言が風雨音と絡んで響いてくる。
一体何があったのか、と巡らせ
振動で小刻みに上下に揺れ尚もこの風圧に曝されているなか必死に何度か理由を訪ねてみるが、彼からの返答は無く独りごちて我武者羅に走るばかりだった。
「ねぇ……、なんなの?聞いて……?」
「あー……場所変えるしかねぇな…畜生」
「ねぇっ……」
そう奥にある森林へと方向転換して行った
のだがーーー
途中で速度を緩め、ある程度進んだところでピタリと立ち止まった
恐る恐る覗き込む。
(どうしたっていうの………?)
光太郎は何かを諦めたように深く、長い溜め息を吐くと
頭を振るい雫を散らせ、ついさっき睨んでいた方へ淀んだ目を向けた
「やたらスピード出しやがって……仕方無ぇ、返り討ちにしてやるしかねぇな」
………………
返り、討ち………?………
遠くから、
溜まった水がバシャバシャと飛ぶような様子の音が耳に届く。
桜子は、
潤んだ目を凝らしていた
あれ………は………