第9章 『狂愛』
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「良い天気だ………」
強い雨と風に吹かれながら暗い空を見上げた男は
腕の中に女を抱え浜辺をのんびりと歩いていた
波が高く、岩礁では飛沫が上がっている
「桜子と離れた時も、この時代に来た時も、海に居た。だから、最後も海にしようって決めたんだ」
話す光太郎に桜子は答える気力も無くひたすら水平線の彼方へ目をやっていた
寒くないか、と聞かれたが小さく頷いただけで何も言わず身をだらりとしていた
ーーー海………
全てはここから始まった
運命を狂わせた深い碧
その歯車を元に戻すのもまた、この碧だというのか
「ーーー帰ったらどこに行こうか。三年経ってても街並み変わってねぇのかなぁ。あーそうそう、初デートは映画館だったよな。今なにか面白いもんやってんのかなー」
…………そうだね、はじめのうちはまだ貴方に気を許してなくて、デート中あんまり口きかなかった
「んでその日の帰りにさ、俺の元カノ数人に囲まれて修羅場になったよなー。後でお前にビンタされたし」
…………そうだね、私と出会う前貴方は何人も女の子がいて…でも付き合い出してから一切女遊びしなくなったんだよね
「半年くらいしてからやーっとキスさせてくれたよな。ははっ、遅ぇっての」
…………そうだね、警戒も解けてだんだん貴方に惹かれていった
「そして…確か冬だった…俺の家に来て二人で抱き合って…嬉しかったなぁ」
…………そうだね、嬉しかった。私、初めてだったんだよ