第9章 『狂愛』
「桜子………」
光太郎はゆったりと歩み
横たわった私の前で屈むと優しくこの身を起こし抱き締めた
「桜子に纏わり付く全てのものから俺がずっと守ってあげる………ずっと………」
虚脱感に陥っている私の唇に重なった彼のそれからは、鉄の味がした
「愛してるよ…………」
囁くその肩越しには、
既に絶命している女の見開いた眼が恨めしそうにこちらに向けられていた
“全部あんたのせいだ”
ああ
彼女が言っていたことは最もかもしれない
この子も
光太郎も
今戦ってる人達も
志乃も
……………幸も
私のせいで皆が翻弄されている
誰も幸せになんかなれない
抱えられ小屋の外に出ると、
暗雲が速度を上げ移動しているのが視界に映った
轟々と空から不気味な音が響く
「この雲の動き………」
光太郎は資料を取り出し、
記されている内容と空を交互に見比べ
嬉しそうに私を揺する
「桜子、もう逃げる必要ない………とうとう帰れるみたいだ」
…………………
帰れる、……………
私がここから居なくなれば
これ以上誰も傷付かずに済むんじゃないかな
どす黒い感情に惑わされる事無くーーーーーー
「…………光太郎、」
「ん?」
「私………帰るよ………現代へ………」
虚んだ焦点の合わない瞳でそう口にした桜子に光太郎は満面の笑みを浮かべた
「………行こうか」
「幸…村様……は……やく……」
二人が草木の茂る闇へと消えていったのを陰で確認していたある女はふらつきつつも、反対方向へと足を踏み出した