第3章 『面影』
夜。
梟が鳴いている。
未だ宴は最高潮で続いていた。
「てめー私の酒返せー!!」
「お前、もう呑むなこの馬鹿っ!!」
「離せやー!クソ幸こらー!!!」
さんざん酔って暴れた桜子は、幸村に羽交い締めにされていた。
側では佐助が必死になだめている。
「もう少し良いじゃないか、幸。天女は歌も踊りも上手くて楽しいんだ。」
「駄目っすよ!コイツにこれ以上呑ませたら何をしでかすか!!」
出来上がった桜子が積み上げた膳に片足を乗せ、いわゆる波止場ポーズで大熱唱を始めると最初は驚いていた家臣達も、現代の演歌が心に響いたのか手拍子まで付けて盛り上がっていた。
そこまではまだ良かった。
調子に乗り、お盆を着物越しの股間に当てて踊り出したというつい先程の衝撃映像が幸村を不安にさせていた。
「う~~~、は~な~せ~………………………うっ………………」
酔いが回り、グッタリと後方にもたれ掛かかる。
「あー、ほら。暴れ過ぎなんだよお前は。ちょっとコイツ、部屋に寝かせてくるわ。」
「小娘め、もう潰れおって。」
皮肉な笑みを浮かべた謙信は梅干しの種を小皿に放ると、猪口に酒を注いだ
「幸~。ヘンな事するなよ~。」
「しませんってば!」
背中越しに聞こえるワイワイと賑やかな広間から桜子を連れ出し、ピシャリと障子を閉めた。