第9章 『狂愛』
「………!」
瞬間、落下してきたその女はひらりと回転し隣に着地すると桜子の鼻筋や輪郭をなぞるように人差し指を滑らせていた
「綺麗ねぇ……」
「…………」
桜子はこの女が誰なのかも何故この場にこうしているのかも分からず呆然としていると、
なぞられていた指の爪が立てられ皮膚に埋まっていく
「ほんっと……癇に障る……」
据わった眼で力を注ぐ女の爪先から逃れようと
堪らず顔面を横に振るとピリリと痛みを感じ
頬には一筋の切れ目が出来ていた
「まさかあんたを連れてコウが脱走するなんてねぇ………」
(コウ、って……光太郎の事……?それにこの子が着てるものって……)
黒い装束ーーー彼等と同様の。
「あんたって疫病神だよね、知ってた?」
女は片側の口端を上げ冷笑すると、
桜子の足首の縄に鎖を巻いた
「地下に落ちてたからまた使ってあげる。………あんたの死に場所へ運ぶ為に」
(………!?)
鎖の末端を持ち、駆け出すと
繋がれた先の桜子の全身が引きずられていく
「う………っっ!!」
「アッハハ!コウに見付かる前に避難しないとね!」
高らかに笑い加速する。
桜子の露出している部分の肌が、
地面の小石や硬い植物の上を通り過ぎる度に擦られ
痛む
(なんなのこの子……っ!)
「ねぇ、どうやって殺されたい?獣の餌にでもなってみる?」
女は森林の中をぐんぐんと走り進み
愉しげに問う
「それともいっそ崖から突き落としてやろーか?」