第9章 『狂愛』
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「………っ、このっ……!」
独り地下の一室に残されていた桜子は、繋がれた鎖をガンガンと力づくで引いていた。
引く度に手首に巻かれた縄が皮膚に食い込み赤みが増していく
謙信様、信玄様、佐助、…………そして幸…………
みんな今頃戦っている。
聞こえてきた部下の会話によれば
私を捜しに謙信様が偵察隊を放っているらしい。
私の為に人員を割いてくれているのだ。
これ以上春日山の人達に迷惑をかけたくない、と、必死に脱出を試みるもそう簡単にはこの頑丈な鎖も鉄杭も外れはせず、途方に暮れていた。
ガチャリ………
(…………!)
扉の鍵を解錠する物音がする
「ごめんね、待たせて」
にこやかに入ってくる彼が見え
顔を強張らせた
側まで歩み寄り額に手を伸ばすと咄嗟に首をすくめる桜子の様子に
光太郎は一転、悲しげに沈んだ
「…………怯えてるの?さっき俺がした事で…………」
伸ばしかけた手を進め額を撫で、
そこに口付ける
「………ごめん、手荒な真似して。ごめんね、ごめん…」
幾度となく謝罪する彼に
私は混乱していた
その激しい感情の起伏に対応が付いていけずにーーー
「…………でも、もう少し我慢してね」
「……………!?」
短刀で鎖を断絶し
シュル、と黒い帯で桜子の口元を覆い
うなじの部分で結んだ。
「桜子、今のうちに二人で遠くへ逃げよう」
……………………………………
(………なにを言ってるの………?)
光太郎は頭という地位にある。
それなのに、
逃げる、って………………?
「仲間を集めて戦わせてるのは城の奴等を足止めする為だよ。頃合いになったら俺達だけで抜け出す算段だった…………それが今だ」
(…………!!)
桜子を抱き上げ
軽快な足取りで扉の方へ進み、再度笑みを向けた
「ワームホールが開くまで誰にも邪魔させねぇ…………その時まで一緒に待とう。な?」
……………………
嫌……………
嫌!!
抗うも、
手足を縛られた身ではなす術が無く
光太郎に連れられ室内から出た
私を抱える彼の指には、自分と揃いの指輪がはまっていた