第9章 『狂愛』
「光太郎っ!?」
どうして…………
私と会っていた時は小袖と手甲や脚絆といった、一般人と何ら変わりのない装いしか見たことがない。
なのに今目の前に立つ彼が召すのは、
ここに居る怪しげな黒装束等と同様のものだった
「どういうこと………?」
辺りを見回すが、家具らしい物は皆無で
ただの暗い空間にぽつぽつと点在する蝋に火が灯っているだけだ。
「!」
身を起こそうとするが自由が利かず、
自分が手足を拘束されている有様だと認識する。
何重にも巻かれた手首の縄には鎖が結びつけられ、その先にある地面に埋め込まれた太い鉄杭に繋がれていた
「ちょっと………なにこれ……!どうなってんの!?」
ぐいぐいと力一杯引いてみるもびくともしない。
光太郎をキッと睨む
「聞いてんの!?一体なんなの?ここはどこなの!?」
「んー、秘密基地。」
頭を掻き、とぼけるさまに腹立たしさが鬱積する
「ふざけないでよ!!まずはさっさとこれ解いてよ!」
「………………」
「解いてってば!解け!!!」
黙っている光太郎に
怒りに任せて怒鳴っていると、
彼のすぐ近くいた男がずいっと出てきた
「女!頭になんて口の利き方を!お前痛い目見たいの……………か………………」
言い終わるのを待たず、
男の顔面に光太郎の拳の裏が打ち付けられた
「痛い目見るのはてめぇだ馬鹿が」
地面にうずくまり呻きながら鼻から血を垂れ流す男を
そう冷ややかに見下ろすと、
他の者達にシッシッと追い払うような仕草をした
「外せ」
装束の男達は無言で頷くと、
未だ地に伏せる仲間を連れ奥の扉から消えていった。
私は、愕然としていた
こんな彼は知らない。
「さて………」
二人きりになったのを見計らうと、
桜子の傍に座り
また先程の朗らかな笑顔に戻る
「話を、しようか」