第9章 『狂愛』
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「……………、…………ます」
「………か」
なに……………?…………
話し声が、する…………………
カビ臭い…………
身体が、動かない………………
「頭、奴等が動き出した模様です」
「………そうか。各部隊の長に指揮を執らせろ」
「はっ」
…………頭がボーッとする……………
薄っすらと重い眼の縁を開きぼんやりとしていたが、不明瞭だった会話や人影の姿形が徐々にはっきりとしてきた
……………黒い服を着た数人………
なんだろ………佐助みたいな忍び装束………
体格からして皆、男だ
目と鼻以外は布で隠されてて…………あ、でも
一人だけ頭巾を被ってない
その者は、横たわった桜子を背に、なにやら指示を出しているようで
周りの覆面者達は腰を低く受け答えをしていた
………あれ………
この後ろ姿………………
声………………
「お頭、女が目を覚ましたようです」
桜子の様子に気が付いた覆面の一人がそう発すると、
背を向けていた人物がゆるりとこちらに首を回した
「桜子」
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にこやかに目尻を下げ私の名前を呼んだのは
今朝、別れを言い渡したばかりのーーー
“昔の彼”、だった