第9章 『狂愛』
「これは…………!」
「………桜子の、荷物だ………」
五百年後の未来から持って来たという、
奇異な入れ物。
“便利でしょ、これ”
金具で口の開閉ができ、使い勝手が良いと披露していた桜子を思い浮かべる
「山道の脇にこれらが放られたままで、佐助様に確認して頂いたところ、桜子様のものだと………。本人のお姿は見当たりませんでした」
幸村の目元が鋭く吊り上がり
髪の毛が逆立つかのような怒りが湧き溢れる
(あの野郎………!)
そうしているうちにまた足早に訪れた兵から声が掛かる
「全て準備が整いましたのでどうぞ表へ!」
報告を受け、
それぞれが門へと歩きだす
「幸」
肩に信玄の手がそっと置かれる
「出立の前にお前の本意を聞いておきたい」
………………………………
「桜子は、俺が必ず連れて帰ります」
その一言に詰まった、幸村の桜子に対する想いを悟った信玄は柔和な眼差しを送ると
肩に置いた手を一旦離し、気合を入れるように背中を叩いた
「さぁ、行こうか」
幸村は頷くと、
前方を見据え
兵達が整列している大手門へと進んだ