第9章 『狂愛』
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春日山城では、
家臣等城の人々が慌ただしく右往左往していた
「奴が幸村が話していた例の“昔の男”か………図らずも先の戦で刀を交えた一団の中に居たとはな。面白い」
小姓から甲冑を装着されつつ謙信は悠々たる面様をしていた。
斥候から、一般の民に紛れ不穏な動きをした者達が領内に侵入しているとの伝達が相次ぎ、光太郎が現れ素性を明かした事により
戦で敵方に加担し逃亡した大規模な窃盗集団の仲間が時を同じく銘々に集結している可能性が濃厚になり、一団を壊滅するべく兵を挙げ乗り出す構えだ。
その為
大手を振って桜子を光太郎から死守するべく大勢の戦力を動かせられる好機となった。
「既に部下には捜索へ向かわせ佐助も後を追っている。小娘はせいぜい徒歩だ。すぐ発見できるはずだが報せは無いのか」
「それがまだ何も………。確かに遅いな」
謙信と信玄が桜子の身を案じている中、
幸村もまたやきもきと気を揉んでいた
(本当は俺が今すぐにでも探しに行きてぇ。だが………)
将として指揮を取らなければならない責任がある。
体裁上、第一優先は一団の撲滅だ。
足軽達も続々と集い始めている。
ここで抜け出す訳にはいかない状況なのだ。
「……くそっ……」
あの男に現代へ引きずられる前に早く連れ戻したい。
思い切り抱き締めたい。
そして言うんだ
俺にはお前だけしかいない、とーーー
(桜子…………)
「……………!」
バタバタと大きな足音が迫ってくるのが聞こえ
全員がそちらに注目する
「御館様!!」
血相を変え飛び込んできた家臣の手には見覚えのあるものが抱えられていた