第9章 『狂愛』
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景色が流れていく。
紅葉が豊かに山々を彩り、
四季を感じさせる
秋に染まった葉が時折はらはらと地面に落ちていくその中、
志乃の兄弟が手綱を握る馬により道を着々と進んでいるーーー
桜子は向かい風に長い髪を靡かせ、
専ら幸村の事ばかりを頭に膨らませていた
ーーー私が幸を好きになったのはいつだったろう
最初のうちは顔も声すらも酷似する光太郎と重ねて見ていた
だけど接すれば接する程“違う人間”なんだと思った
ぶっきらぼうな物言いに隠された優しさ
真面目で誰よりも純粋
好きになってはいけない
光太郎を想っていた自分を消してはいけない
光太郎を裏切ってはいけない
そればかりが渦巻いて幸を遠ざけたりもした
でも
そう考えてる段階でとうに惹かれていたんだろうな
付き合い始めて
色んなところに出掛けて
ふざけ話言い合って。
大喧嘩したり
些細な事で取っ組み合いまでしたっけ。
そして身体を重ねる度に深く深く溺れていった
“面倒くせぇから嫁に来い”
“上田城で一緒に暮らそう”
ーーー幸せだった。
だったのに。
“もう顔も見たくねー”
私が壊した
「……………」
じわりと涙が溜まる。
謙信様や信玄様、佐助…………
佳世さん等城の皆
心配してる、かな
それともこんな騒ぎを起した私を蔑んでるのかな
「…………さん、………桜子さん?」
横につけた片方の馬に乗る志乃からの呼び声に我に返りハッとする。
「どうしました?気分でも悪いのですか……?」
「ううん…大丈夫。ごめんね、なんでもないよ」
「ならいいのですが………あ、ここらでひと休みしましょうか」
(いけない………志乃に気を遣わせてる)
桜子は申し訳無さそうに頷くと、
木陰に止まった馬から降りた