第9章 『狂愛』
男はストン、と畳に着地すると
腕を組み佐助をじろじろと目視する
「あんたが佐助君……だよね。俺が誰だか既に分かってるよね?」
首を傾げ尋ねるその様相は、一見笑っているが目の奥に温かみは感じられない。
こんなに幸と瓜二つなのに雰囲気は真逆で、
どす黒い邪気を放出しているかのような冷たさだ。
ーーー隙を見せたら殺られるーーー
自分の本能が警鐘を鳴らす
「あんたが急に戻ってきて調べもの始めちゃうから其処らに隠れて潜んでたんだけど脱出失敗したなー。でも先にこれ押収しといて良かったわ」
見せつけるように懐から僅かに出した物体
ーーーそれが何か確信した佐助の心臓が大きく振動した
グラフや計算が記されたものは今俺のところにある。
奴が手にしているのは調査結果やワームホールの事を細かく文章でまとめた資料ーーー
「桜子がこないだ言ってたの思い出したんだ。二ヶ月後のワームホール…だっけ?……………それより前にもう一回同じ現象が起こるかも、って。詳しい情報が知りたくなって、佐助君の部屋漁ってた。ごめんねー」
「…………盗ったのか」
「うん。俺、本職は泥棒だから」
俺の反応を見ながら意気揚々と経緯を説明するさまに苛立ちを覚える
「これさっきじっくり読んだらさー、ずーっと俺が行動してた地域でタイムスリップの前兆起きてんだよね。戦からそれ以降の期間。どうしてか教えてくれる?」
「…………答える義務は無い。それよりお前はやはり戦場に居た………」
「正解。あんたらと戦った集団の一味なんだよねー、これが。………………事情があってもう隠す必要も無くなった」
相手が言い終わると同時に、
佐助は鞘から刀を抜いた
「資料を返せ。お前を捕縛する」
「…………どっちも断るよ」
笑顔はそのままに、
光太郎は同じく抜刀した