第9章 『狂愛』
ーーー城の一室では、佳世と幸村が対面し
ピリピリとした空気が充満していた。
「…………そうですか。結局桜子様を捨てた、と」
「あ?随分な言い方だな。そもそもお前がやたら厳しく躾けたのも原因の一つじゃねーか」
「全くそんな事で………馬鹿ね、あの子も」
冷ややかにそうこぼす佳世にカッとなった幸村は畳に
手の平を叩き付けた
「慣れねーもんばっかりさせてんじゃねーよ!そんな苦労必要ねーんだって。俺がやらなくていいっつってんだからお前は引っ込んでればよかったんだ!」
「教養を積んだ証として嫁ぎ先に免状を持参する習わしをお忘れですか」
「………知ってるけどよ、俺が話つければそんなのはなんとかなる」
「分かってないですね、あなたは。後々親族や関係者から白い目で見られるのはあの子なんですよ?」
「………………」
淡々と述べられる現実的な理に幸村は言葉を詰まらせた
「………しかし確かに私は幾らかあの子に言い過ぎたやもしれません」
佳世は忍ばせていた懐剣をスッと出すと、自分の喉に突き付けた。
「万が一、安土に向かう道中桜子様に何かあったら私は死をもって償います」
「なっ……」
「この覚悟に免じてどうか迎えに行ってあげて下さい。…………幸村様がまだあの子を想っているのはお見通しですよ」
二人の視線がぶつかる。
「…………あれだけ辛くあいつに接してた癖に……嫌ってるのかと思ってた」
「あら、そう見えました?………まぁ、出来の悪い子程なんとやら……………ですよ。あの子を不幸にすることはこの私が許しませんよ」
刃を当てながら、にっこりと笑みを浮かべた