第3章 『面影』
白地に桃色の桜模様の着物、その上から赤字に金の刺繍が施された打掛けを纏った桜子は皆に挨拶を終えたあと指定された場所に座った。
「…………美しい………あれが桜子様か………」
「あのような雅な女性は今まで見た事が無い」
「まるで造りもののようだ……」
ザワつく家臣達を余所に、当の本人は憮然としていた。
無理矢理慣れない装いをさせられ、慣れない畏まった挨拶。教えた通りに出来るのかと、佳世が遠くから目をギラつかせていたものだから嫌々ながらもとりあえず遂行した。
化粧は自分でやると頑なに言い張りナチュラルメイクに済ませた。
この時代の姫は主に垂髪らしく、必用以上に髪をいじくられなくてホッとした。が。
今日一日中動き回ったせいでとにかく空腹だ。
膳には純和食な料理が並べられている。
(ちっ、やっぱ肉は無いのか……………ん!?これはもしや鶏肉か!?やったぜ!)
「ああ、緊張して俯いてしまってるお姿も可憐だ………」
「なんと奥ゆかしい………」
未だヒソヒソとする家臣達の話し声が、何故だか妙に鼻につく幸村は面白くなさそうにチラリと桜子の方へ目線をやった。
(けっ、なにが可憐だよ。見てくれに騙されやがって。ありゃー飯に意識が集中してるだけだっつの。
)
そう思っていると、小走りでやってきた信玄が桜子にがばぁ、と抱き着いたのが見えてドキリとした。
「天女~!」
「ひっ!」
抱き着き頭を撫で回され、指で顎を上げられる。
「なんて綺麗なんだ………。脚を晒して闘う君も素敵だったが、この姿も一段と美しい………。どうだい、今宵は俺と一緒に過ごさないか」
「し~ん~げ~ん~様ーーー!!早く元の所に大人しく座りやがれですよ!とっとと向こうで謙信様と乾杯の音頭とって下さいよ!」
「ああっ、天女~!」
強引に幸村に連行される信玄がこちらに手を差し伸べながら嘆いている。なんとも滑稽だ。
「なにこの天丼、お約束な訳?」
クスクスと笑う桜子に、隣にいる佐助が安堵した
「良かった。今日は大変な日だったけど、桜子さんの笑顔が見れて安心したよ。やっと二回目だね、笑うの。」