第3章 『面影』
「桜子様、なりません!」
「嫌だってばー!!!」
桜子に割り当てられた一室では、二人の女の押し問答が繰り広げられていた。
「せっかく風呂に入ったばっかりなのになんでまた化粧しなきゃならないんだよ!しかも着物に着替えてまで!ご飯食べるだけじゃん」
スッピンに、上はタンクトップ、下は短パン姿の桜子はドカッと座布団に胡座をかいた。
佐助からの頼みもあるが、なにより幸村との激闘ぶりを見た謙信が桜子を気に入り上杉家由縁の姫として、ここ春日山城で暮らす事になったのだ。
「そのような卑猥な出で立ちで宴の席に出られては困ります!この佳世(かよ)、桜子様の御世話役の女中として見過ごす訳には参りません」
(なにこのオバサン。超こえー)
見下ろしながら戒める様は迫力たっぷりだ。
年配だが、目鼻立ちがハッキリと整った様相で昔はさぞかし綺麗だったのだろうと連想させる。
しかし黙って言う事を聞く気は更々無い。
「やーだね」
舌を出す桜子に、ピクッと佳世の片眉が動く。
「多江(たえ)、三津(みつ)。」
そう呼ぶと、直ぐ様襖がサッと開き二人の女中が正座で待ち構えていた。
「桜子様、お許しを。」
「なっ…………わぁっ!」
多江と三津に両脇から取り押さえられると、眼光を鋭くした佳世に身ぐるみを剥がされていった。
「い~~や~~だ~~!!!」
広間には動き回る女中、多くの家臣達や謙信・信玄・幸村・佐助が各々の位置に座っていた。
「あいつ遅くねーか?あー腹減った」
「かなり準備に手こずってるみたいだね。さっきも悲痛な叫び声がこだましていたよ。」
ったく騒がしい女だなー、と幸村が眉間に皺をいると
「お待たせ致しました。桜子様の御支度が只今整いました」
疲れきった面持ちの佳世が三つ指をついてお辞儀する後ろからゆっくりと現れた女の姿に、その場にいた全員が息を飲んだ。