第8章 『狡猾』 ※R‐18
「ごめん………なさい」
“一緒に帰ろう”
最初、心が揺れた
あまりにも濃い光太郎と過ごした現代での日々
この時代に飛ばされた当初、彼を想っては夜泣いていた
もしあの時出逢えていたらーーー
なにか変わったんだろうか
やんわりと押し退け、
光太郎から離れると背を向け歩み始めた
「………その荷物、城を出てきたんだろ。他に行くとこなんてあんのかよ」
「安土に、行く。…こないだ話したでしょ、あいつらが居るって。私もそこに置いて貰う」
「その後はどうすんだよ、どっちにしろ現代に帰るんだろ」
「現代には……帰らない。せめて幸と同じ時代で生きたいの……………一緒になれなくても」
一つでも共通点が欲しい。
同じ空の下で生きるだけでもいいんだ。
幸を、愛してるから
「……………さよなら」
………………大好きだった。
愛しくて温かい私の過去
もう、顧みない
「なんでだよ………」
桜子が立ち去り、
光太郎は手の平に残された指輪をただただ見つめていた
『これ、くれるの?………嬉しい』
『光太郎、だーい好き』
『光太郎、愛してる』
今も鮮やかに蘇る遠い記憶。
自分だけに与えられてきた、笑顔と言葉
「桜子…………」
雫が当たった銀色の指輪は、
身体を折り曲げ嗚咽する影に覆われ光を失っていた