第9章 『狂愛』
春日山城・本丸ーーー
ゆったりと正面に座り刀の背を突ついている謙信はフン、と鼻を鳴らす
「成程……痴情のもつれか。…………あれだけ色惚けだの痴話喧嘩だの祝言だの散々騒いでおきながら呆気ないものだな」
「……しょーがーねーんですよ。あいつが他の男に気を許すからだ」
幸村はバツが悪そうに斜めに顔を逸らした
「だったらその男を消して小娘をここに閉じ込めれば済む話だろう。何故その逆をいく」
「俺はそんな監禁みたいな事する精神は持ち合わせてないんで。…………今頃あの男と会って現代に帰るまでの間仲良く暮らすんだろ、どーせ。……もうどうでもいいっすよ」
ヒュン、
と刀の切先が幸村に向けられ面前で静止した
「…………」
睨み合っていると、
横で傍観していた信玄が口を挟む
「幸。天女は、安土へ行くつもりだ」
「安土!?」
「ああ。昨夜あの子から安土までの行き方を教えてくれと頼まれた小姓が簡単な地図を書いて渡したらしい」
「……………」
あそこには桜子の連れが滞在している。
合流しようという訳か…………
あの男と共に帰るのではなくーーー