第8章 『狡猾』 ※R‐18
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私はある決心をしてこの場所に来ている
「完全に部屋着だなー、それ。久々にお目にかかったわ、パーカーとか。スニーカーも履いてんじゃん」
“待ってる”と言われた、
何度か通ったここに到着した私の身なりを懐かしむように
ニコニコと笑う。
相槌を打っていると、
彼が自分の膝をトントンと叩いた
「桜子、おいで」
いつもの
仕草
再会したばかりの時は吸い込まれるように
そこに寄り添った
でも
もう……………………
「桜子…………?」
腰を下ろさず、桜子は鞄の中をゴソゴソと漁り
ある物を取り出した
戦の出立の朝に外したきりのーーー
「これ」
光太郎の手の平に指輪を乗せた。
「お前これっ………昔あげたやつだよな?まだ持ってたんだ………?俺…」
「返す」
………………………………………
「は………?」
「折角くれたものなのにごめんなさい…………でも、返す」
「なんだ、それ…」
光太郎の顔が段々歪んでいくのが分かったが、
私の意思は固まっている
「私が好きなのは、幸なの。………だから一緒には帰れない」
「どうせ別れたんだろ?別れたからここに来たんじゃねぇのかよ」
「別れたけど………まだ好きなの」
瞬く間に腕を引っ張られ
胸に閉じ込められた
「お前どうかしてるよ!そんないつ死ぬか分かんねぇような奴好きになったって幸せになんかなれねぇだろ!!」
「……それでもいい……幸が好…」
「大体お前が好きなのは俺のはずだろうが!!!」
抱き締める力と共に語気を強め怒鳴る彼を見たのは初めてだった
常に穏やかで楽天的だった彼をこうさせたのは、紛れもなく私だ。
私の、せいだ。