第8章 『狡猾』 ※R‐18
「幸、それって………」
「昨日、俺んとこにも出張ってきやがった。腕は立つが狡賢くていけ好かねー奴だ」
「その男もしかして………幸に似てた?」
瞬時にこちらに向ける幸村の面持ちが険しくなり
ゆらりと立ち上がる
「………なんで知ってんだよ」
「桜子さんから、だいぶ前に聞い…」
「なんでお前が知ってて俺が知らなかったんだよ!」
肩を掴まれがくがくと揺すられるが佐助は表情を変えず話を再開した
「あれは確か、戦の前日だった。………あの子の意図を探る為に俺が幸のことについて問い詰めて、その流れで……………。当時は相談できる友人も他に居なかっただろうしね。ましてや本人には言えるはずも無かったんだよ」
「………だからって……お前まで俺に隠して……」
「わざわざそんな事を幸に暴露して傷付ける程俺は薄情じゃないからね」
「……………」
掴む力が徐々に弱まっていく
「………あの時、彼女は泣いてたよ。戦に出る幸を想って。幸が好きだ、って。………そんな子が昔の男に本気で靡くとは考えられないんだけどね」
無言で俯いている幸村の手を自分の肩から外すと、
佐助は眼鏡をスッと整えた
ーーーその男………
何故この時代で生きている?
…………………………
差し詰め理由は一つしかーーー
「取り込み中かな」
閉めるのを忘れていた襖の際に信玄がいつの間にやら立っていた
「……信玄様」
「来い、幸。…………謙信がお呼びだ」
顎をクイ、と廊下側に振ると
普段とは違う重い空気を纏い先に歩いていく
「……………」
ひと呼吸置き幸村が部屋を出ると
危惧の念を抱いた佐助も後を追った