第8章 『狡猾』 ※R‐18
一方春日山城では、
起床し各々仕事に動き始めた女中達が異変に気付き慌てていた
「桜子様が居ません!」
「昨夜までは確かにお見掛けしていましたのに…」
騒ぎを聞きつけた佳世が問い正すと、
焦った様子で口々に答えていた女中が桜子の部屋を指差す
中を覗くと、
いつもは乱雑な部屋がきちんと整理整頓されていた
衣桁には着物が掛けられ
文机には何も置かれておらず
鏡台にもこちらが用意した物しか残っていなかった
ただ、桜子の私物だけが消えていた
「幸!大変だ!」
襖を勢い良く開けた佐助が一枚の紙を握り締め飛び込んだ
「………てめー何勝手に入ってきてんだよ」
壁に背をもたれ立膝をついて座る部屋の主はどこか一点だけに据わった目をやったままだった
褥には寝ていた形跡が無く
刀の手入れ道具が入った箱は蓋が空きっぱなしになっている
ただの喧嘩ではなかったーーー
そう察するも佐助は起きている事を伝えなければと
口を開いた
「桜子さんが、城から出て行った」
一瞬、幸の黒目が俺を捉えたがまた元の方へ戻る
「今朝俺の部屋の襖に手紙が挟まってた。勝手な事をして済まない、落ち着いたらまた手紙を送ると書いてある。……………一体、何があったの」
「別れた」
「………………え?」
「…………昔の男が現れたんだとよ。………今頃そいつの所に会いに行ってんだろ、きっと」
投げやりに言い放つ幸の台詞の内容に驚愕した
昔の男………
桜子さんが話していた、
三年前海で行方不明になったというーーー
その人物か…………!?