第8章 『狡猾』 ※R‐18
その夜は二人共夕餉の席には現れず、
また喧嘩でもしたのだろうと信玄は深く息を吐いた
佐助もまた、何があったのだろうと幸村の部屋の前まで足を運んだが、もはや寝ているのか返事は返ってこなかった
ーーー例の如くそのうち仲直りするだろう。
事情を知らずに
誰もが、思っていた
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翌日、
早朝ーーー
皆が未だ寝静まる中、
パーカーとスエットに身を包んだ桜子は
自前の大きな鞄とリュックを背負い、
スニーカーの爪先を地面にトントン、と弾かせた
大手門から一歩踏み出し
背後の見慣れた城を見つめた
(もう、ここには居られない………………)
さよなら、春日山城ーーー
皆、
そして
幸………………………………
涙で城と景色がぼやける。
手の甲でグイ、と拭うと
前を向き
歩を進めていった
撫子がそこら中にひしめき合う一帯ーーー
ひときわ大きな木の根元には、
煙を吹く光太郎が胡座をかいていた
傍には無数の吸い殻が塊になっている
「遅ぇよ、お前。…………来ると思ってた」
そう柔らかく微笑むと、
煙草の先を擦り潰し吸い殻の山に捨てた