第8章 『狡猾』 ※R‐18
「顔が似てるとか関係ない!私が好きなのは幸なの!………幸だけだから……っ」
声を大にして訴えるが
幸村は動じず粉を打っていた
(こっちを見てもくれない…………)
「ねぇっ………」
「俺のことが好きっつー割にはあいつに抱かれようとしてたんだな。ふざけんなよ」
打ち粉をはたき終わると、刀背を紙で挟み滑らせ付着した粉を拭き取っていく
「それがしたかった訳じゃなくて、いつの間にか光太郎にそういう雰囲気に持っていかれて…………」
(また人のせいかよ。名前とか出されても知らねーよ。聞きたくねー)
粉を拭き終わり、刀身が完全に綺麗になっているか裏と表を確認する
「でも途中でちゃんと拒否したの!幸が好きだか…」
「もういい」
手を止めた幸村が桜子の言葉尻に重なるように発した
「途中までやり掛けた時点で有り得ねーから」
「………幸っ………」
「もう顔も見たくねー」
「………………!」
「終わりだ」
ーーー当然の報いだ
だって私は狡いから。
光太郎の優しさに甘るだけ甘えて
幸が帰ってきたら何事も無かったかのように済まそうとしてたのだから。
狡かった。
その狡さが幸を傷付けたんだ。
愛想を尽かされて、当然だ
一度たりともこちらを向かずに終始刀を手入れする幸村を残し、桜子は部屋を出た