第8章 『狡猾』 ※R‐18
ーーーやっと辿り着いた城の玄関先
裏が真っ黒になった足袋を脱ぎ捨て、
裸足で板張に乗り上げると
桜子は幸村の部屋へと急いだ。
汗だくの顔面に、
乱れた着物
何があったのかと通り掛かる女中等が驚いて凝視しているが気にしてはいられない。
(幸……!)
裸足のせいかいつもより足音が大きく響く。
幸村の部屋の前まで来ると、
激しい呼吸を整え声をかけた
「幸、いる?」
ーーー返事は無い。
だが、中からは気配がする
「………入るね?」
了承も得ないまま襖を開けると、
なにやら刀を弄っている幸村が座っていた
桜子は後ろ手で襖をパタンと閉じると、
近くまで寄っていき
作業の邪魔にならない位置に正座した。
「………全部、話すよ………あの人のこと、過去のこと、今回のこと………全部」
ギュッと目を瞑り意を決すると、
ぽつりぽつりと
事細かく真実を伝え始めた
「ーーー…………それで、習い事の疲れもあって頭回らなくなっちゃったっていうか…………こんなの言い訳でしかないんだけど………でも私はやっぱり幸が好きだから途中で…」
「俺言ったよな?手習いなんかやめてもいいって」
幸村は話を聞きながら目線は刀から逸らさず、
刀身に打ち粉を打っていた
「そうだけど………佳世さんに諭されて…」
「人のせいにすんなよ。ほんと言い訳ばっかだな、お前」
ぽんぽん、と粉をはたいていく
「あの野郎が言ってた事あながち間違いじゃねーんじゃねーの。俺があいつに似てるから、好きだのなんだの抜かしてんだろ?結局あいつに情があるからコソコソ会いに行ってたんだろーが。………死に別れたはずの昔の男が還ってきて良かったじゃねーか」