第8章 『狡猾』 ※R‐18
柄の目釘を押し出し、
拳で軽く叩くと刀身が徐々に出てくる。
一足先に城に戻った幸村は、
信玄に挨拶と視察結果の報告を済ませると自室で刀の手入れをしていた
「……………」
“あいつは俺が居ない淋しさをあんたで満たしてたんだよ”
浮かぶのは自分と桜子との甘美な情事の光景ーーー
『あっ、ん……ああっ!……そこっ……良い………っ』
扇情的な表情で艷やかに啼く声と息遣い
ーーーあの野郎の前でも同じ姿を見せてたんだろうか。
“あいつの身体、すげー良かったろ。なんせ俺が教え込んでやったんだからさ”
ーーー俺との情事と同じように以前もあの顔で、あの声であの野郎に抱かれてたんだろうか。
「…………虫唾が走る」
刀身の汚れや古い油を切先に向かって数回拭き取ると、拭い紙を放り投げた
“あいつがあんたに落ちたのは、あんたが俺の顔に似てるからーーーただそれだけだ”
“いつもの所で待ってる。続きしよーな”
桜子の肌に残った赤い跡。
俺が視察に行っている間頻繁に逢瀬を交わしていたのか…………いや、もしかしたらその前から………………
『祝言、年明けになるわ。色々片付いたら一緒に上田城で暮らそう』
『うん!楽しみだなぁ』
あいつの笑顔も、言葉も全て偽りだったのか?
ぐしゃぐしゃと前髪を掻きむしり
額を押さえた
そうしていると、
廊下からバタバタと足音がした。
その主が誰かは分かっていた