第8章 『狡猾』 ※R‐18
「あっ……」
無理矢理合わせをガバッと開かれる
「ーーーーーー」
幸村は目を見張った
次いで桜子の耳元辺りの髪を掻き上げる
ーーー首筋から胸元にかけて数ヶ所浮かび上がっている赤い印。
「……………」
するりと手を離す
大きく開いていた目を伏せると
何の言葉を発する事も無く、
幸村は馬に向かって歩き出した
「………待って!」
その腕にすがり付く
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ…………ちゃんと説明するから………私は幸しか…」
「触んじゃねー」
荒々しく手を払われ桜子は尻餅をついたがそれに見向きもせず幸村は鐙に足を掛け鞍に座ると、
手綱に括っていた花をむしり取り乱暴に投げ捨てた。
馬の腹を踵で蹴り発進の合図を送る
「待って!話を聞いて……!」
(お願い、いかないで………………!話をさせて!)
馬を走らせ遠くなっていく幸の背中にいくら呼びかけても立ち止まることは無く、
私は片方の下駄が脱げているのにも構わずもつれた足で必死に後を追った
無人となったその場所
「………なにあの三つ巴。見ちゃいらんないわ全く」
ガサリと草を分け現れた一人の女が面白くなさそうに独りごちる
(コウが女に固執するなんて信じらんない!しかも私を使って情報収集までさせて………)
突如、上杉家所縁の姫として入り浸っているあの謎の女。
コウだけじゃなく真田幸村まで手玉に取る邪悪な女。
「あー腹立つ。無駄に器量だけは良いし」
地にばら撒かれている花を一輪つまみ掲げる
ーーー桃色の撫子ーーー
「“純粋な愛”、か……………」
(なんであの女ばっかり………気分悪い)
グシャリと握り潰すと
花弁の残骸がひらひらと虚しく散っていった