第3章 『面影』
『俺に勝てる訳ねーだろ、木下』
……………前にもこんな事があったっけ……………
鼻に当てた手拭いからは、ふわっと微かに香の匂いがした。
「さぁ天女、疲れただろう?もうこんな時間だ。今日は君の為に宴を開くとしよう。ああ、その前に湯浴みをして汗を流すといい。なんなら俺も一緒に」
「コラコラコラーーー!!!」
ほんの冗談だよ、と信玄が軽く幸村を往なしているとおもむろに立ち上がった桜子が口を開いた。
「ありがとうございました。………………流石、“真田幸村”は強かったです。………参りました。…………っでも!」
キッと一睨する
「いつか絶対に勝ってやる!首洗って待っとけ!」
茜色に染まった夕陽を背にそう啖呵を切ると、一呼吸置いたあと幸村が盛大に吹き出した。
「さっきまで泣いてた癖に……………ぶっ…………くくっ…………お前、女にしとくの勿体ねーわ」
「う………うっせぇ!あんた馬鹿にしてんの!?」
なんなの、こいつは。
何が可笑しいのかよく分からないけど、いちいちウケてるし。
真田幸村ってこういう感じの人だったんだ。まるで同級生と喋ってるみたいだ。武将ってもっと堅苦しいイメージだったんだけどな。
………………ちょっと見方変わったかも。
「………まったく、激しいコンビだな。なんかちょっと雰囲気似てるし。」
そう二人の喧騒に息を吐いた佐助の背後から漆黒のオーラが漂い始めオッドアイが美しく閃く。
「佐助」
ぽん、と肩を叩かれる。
「次は我々の番だ。忘れた訳ではあるまいな………?」
もう、後ろを振り返りたくない。
「どいつもこいつも○★▲◆☆●△~~~~!!!」
ん~?どうかしたか~?と呑気に問う信玄の声は、全速力で逃げ出す佐助の耳にはもう届いていなかった。